小児がん経験者の健康管理とは

健康管理の基本

一般の健康管理は主に以下のものが言われています。小児・AYA世代がん経験者によっては、不健康な生活によって晩期合併症のリスクを促進してしまう可能性も言われていますので、注意が必要です。

  • 規則正しい生活
  • バランスのとれた食事
  • 適度な運動
  • 飲酒は適量
  • 禁煙
  • ストレス解消方法をもつ
  • 健康診断、がん検診受検

( 2021年度 がんの子どもを守る会 石田 也寸志 先生 講演スライドより引用:詳細は参考資料・情報コーナーをご参照ください)

小児・AYA世代がん経験者特有の健康管理

もともとのがんの種類、性別、治療を受けた年齢、治療の内容や期間、遺伝的背景によって異なります。小児がん経験者特有の健康問題(晩期合併症)やリスクについては参考資料・情報コーナーを参照ください。

健康管理の第一歩「治療サマリー」

小児・AYA世代がん経験者の健康管理の方法を考える時に、
一番大切なものは「治療サマリー(治療のまとめ)」です。

医者のイラスト

小児・AYA世代がん経験者の健康管理の方法を考える時に、一番大切なものは「治療サマリー(治療のまとめ)」です。小児がんの診断名、病期・リスク分類、診断時の年齢などの基本情報に加え、化学療法の種類や総投与量、手術の有無や方法、放射線治療の有無や照射部位・総線量、造血幹細胞移植の有無などが記載されたものです。

これらの情報をもとに下記のように目安としてフォローアップレベルが分類され、今後のフォローアップの頻度や内容などが決まってきます。「治療サマリー」を入手し、この「治療サマリー」に基づいて今後の健康管理の方法について医師と相談することが、健康管理の一歩です。「治療サマリー」は主治医の先生に相談すれば、作成くださいますので、相談してみてください。相談できる医師がいない等でお困りの方は、医療機関と繋ぐ相談支援事業を行っておりますので、ご相談ください。

フォローアップレベル(JCCG)

分類 対象者 ケア提供者 頻度 内容
1 一般的
健康管理群
機能障害を残さない外科手術 健診医
家庭医
1/Y 一般診察
2 標準FU群 低リスク化学療法※
※DXR<250mg/㎡かつCPM<7.5g/㎡かつCDDP<360mg/㎡かつIFM<45g/㎡
家庭医
長期FU外来
1/Y 一般診察、合併症疑い時は専門検査
3 強化FU群 高リスク化学療法
自家移植(ブスルファン・全身照射なし)下記以下の放射線治療あり
長期FU外来 1/Y 合併症疑い時は専門検査、成人期以降もFUが望ましい
4 高度FU群 同種移植、自家移植(ブスルファン/全身照射)脳腫瘍、再発、遺伝性腫瘍
放射線照射(頭≧18、胸≧15、精巣≧6 Gy)
長期FU外来 1/Y 合併症疑い時は専門検査、成人期以降もFUが必要
5A 要介入群 臓器障害あり(社会参加・生活制限あり)晩期合併症あり要治療 長期FU外来
専門外来
1/3-
6M
合併症疑い時は専門検査、成人期以降もFUが必要
5B 要介入群 臓器特異的介入(骨肉腫後の人工関節等) 専門外来 必要時 臓器特異的な外科的治療後のFU

(  出典;「小児がん治療後の長期フォローアップガイド」2021年 クリニコ出版発行 東京:詳細は参考資料・情報コーナーをご参照ください)

年齢に応じた準備を

自分自身で健康管理を行っていくためには「ヘルスリテラシー」が重要と言われています。ヘルスリテラシーとは、一般に健康に関連する情報を探し出し、理解して、意思決定に活用し、適切な健康行動につなげる能力のことをいいます(日本ヘルスリテラシー学会)。年齢に応じたヘルスリテラシーには、以下のものが挙げられます。

「基本的生活習慣の獲得」とともに、ライフステージの変化に応じ、

  • 発達段階に応じて、病気・治療に関する知識を身につける
  • 診療情報(これまでの診断・治療内容)を自己管理できるようになる
  • 体調管理ー自分の身体の異変に気付く
  • 医療者や周囲の人と適切なコミュニケーションを取り、体調不良を伝え、援助を依頼することができる
  • 自立した受診・セルフケア行動ができることが必要

( 2021年度 がんの子どもを守る会 石田 也寸志 先生 講演スライドより引用:詳細は参考資料・情報コーナーをご参照ください)

その不調もしかしたら治療の影響かも

case

  • 疲れやすい、疲れが解消されにくい
  • 原因が分からないけれどやせてきた、太ってきた
  • 高血圧と言われた
  • 太っていないのに高脂血症や内臓脂肪が多いと指摘された
  • 歯磨きをしているのに虫歯や歯周病が起こりやすい
  • 若いのに骨粗しょう症と言われた
  • むくみやすい
  • 耳鳴りや騒がしい場所だと聞こえが悪くなる
  • 体温計の電子音が聞こえない
  • 若年で別のがんになった

もとの病気とは関係ないと思っていても、
もしかしたら関連している不調の可能性もあります。

治療などの対応も過去の治療歴によって注意しなければならないこともありますので、該当する不調がある場合には、フォローアップを受けている施設か小児がんの治療を受けた医師に相談をしてみてください。相談できる医師がいない等でお困りの方は、医療機関と繋ぐ相談支援事業を行っておりますので、ご相談ください。

チェックしておきたい検診の検査項目

チェックしておきたい検診の検査項目

学校や会社などでの検診も健康管理のひとつです。検診で少しでも注意が必要な判定が出て、検診の担当医から経過観察と説明されたとしても、一般の方とは異なり小児・AYA世代がん経験者によっては対応が必要な場合もあります。フォローアップを受けている施設か小児がんの治療を受けた医師に相談をしてみてください。相談できる医師がいない等でお困りの方は、医療機関と繋ぐ相談支援事業を行っておりますので、ご相談ください。

チェックしておきたい検査項目

(「全国健康保険協会ホームページ」http://www.kyoukaikenpo.or.jp/を参考に改変。検査の種類の詳細については「全国健康保険協会ホームページ」 の「検診のご案内」「どんな検査があるの」のページが参考になりますので、ご参照ください。)

一般検診での主な検査項目開く
身長 思春期までの間で身長の伸びが悪い場合には主治医の先生に相談しましょう。
体重 心当たりのない体重の増加や減少は要注意です。
腹囲 小児がんの疾病によっては若いうちにメタボリック症候群と言われることがあります。
BMI/標準体重 BMIや体重は標準でも筋力が低下し総脂肪量が多くなる「サルコペニア肥満」が造血細胞移植後などに見られると言われています。
視力 治療によってはドライアイや視力、白内障、緑内障のリスクのある方もいらっしゃいます。
聴力 高周波と低周波の両方を検査します。治療によっては聞こえが悪くなる場合があります。注意しましょう。
血圧 高血圧は心筋梗塞・脳卒中を招く動脈硬化や腎臓病等の発症に関与しています。受けた治療によっては腎障害や腎血管性高血圧、メタボリック症候群の可能性もあります。
脂質 総コレステロール定量 血液中に含まれるコレステロールの総量です。ホルモンの異常や脂質異常などの可能性がわかります。
中性脂肪 使われなかった中性脂肪が増えすぎると、動脈硬化の原因になります。
HDL-コレステロール 善玉コレステロールとも呼ばれています。動脈硬化の予防と関係があります。
LDL-コレステロール 悪玉コレステロールとも呼ばれています。この数値が高いと動脈硬化等を進める原因となります。
肝機能 GOT(AST) からだの代謝がスムーズに行われるための重要な役割を酵素です。肝細胞や心筋の細胞内で障害が起こると数値が高まります。主に肝機能の評価に用います。
GPT(ALT) 肝機能を評価するのに大切な数値です。(腹部の手術や放射線照射、特定の薬剤によって影響を受ける場合があります。)γ-GTPやALPなどの他の検査結果も含めて総合的に評価されます。
γ-GPT(γ-GT) アミノ酸の生成に欠かせない酵素で胆道から分泌され、肝臓の解毒作用に関わっています。肝機能障害を見つける手がかりになります。膵臓の病気でも上昇します。
ALP や胆道、骨、小腸などに含まれる酵素です。肝臓障害や胆道の病気で胆汁が排泄されなくなると数値が高くなります。
T-Bil(総ビリルビン) 黄疸があると上昇します。総ビリルビンは直接ビリルビンと間接ビリルビンの総和です。胆道系の障害があると直接ビリルビンが上昇し、赤血球が過剰に破壊されると間接ビリルビンが上昇します。
代謝系 空腹時血糖 糖尿病などを見つける手がかりになります。
ヘモグロビンA1c 過去1~2ヵ月間の血糖値の状態を知ることができ、糖尿病などの手がかりになります。
尿糖 糖尿病などを見つける手がかりになります。
尿酸 一般的には高尿酸血症、痛風の可能性を診るものですが、特定の化学療法や放射線照射などによって腎機能障害が起こる時に上昇することがあります。
血液一般 ヘマトクリット値 主に「貧血」の有無が分かります。
血色素(ヘモグロビン)
血色素(ヘモグロビン)は赤血球中の赤い色素の成分です。赤血球数が正常値でも、血色素値(ヘモグロビン)が不足していると貧血のことがあります。
赤血球数 赤血球が減少すると、酸素運搬機能が低下して貧血となります。また、赤血球が増加すると多血症となり、血管の流れがわるくなります。
白血球数 体内に異物が侵入したときや、白血球を作る骨髄に異常が起きたときは、白血球が急激に増加します。また、白血球を作る骨髄のはたらきが低下しているときは、白血球が減少します。
血小板 血液が固まるように働きかけ、出血を止める役目を果たします。
尿・腎機能 尿蛋白 腎臓病などのさまざまな障害により、通常より多くのたんぱく質が尿中に現れることがあり、腎機能障害などを見つける手がかりになります。
尿潜血 腎臓や尿管、膀胱や尿道などのどこかに出血があると尿中に血液が混ざります。
クレアチニン 筋肉量に比例するため、男性は女性に比べてやや高めの基準値です。腎臓の機能が低下すると値が高くなり、腎機能障害の手がかりとなります。
尿素窒素 腎機能を評価の評価に使用します。脱水や腸管出血があると上昇することがあります。
心機能 心電図 心臓の機能や心臓病の有無を調べる検査です。
胸部X線 肺や気管支などの呼吸器のほか、心臓や縦隔、胸膜などの病変を調べる検査です。特定の薬剤や胸部照射、肺の手術などを受けた場合には特に注意が必要になります。喫煙はリスクを高めますので控えた方がいいでしょう。
上部消化管バリウム検査
/内視鏡検査
オプションの検診になっている場合もあります。食道・胃・十二指腸の病変を調べるための検査です。
大腸 免疫便潜血反応検査 大腸など下部消化管の潰瘍やポリープ、がんの有無を調べるのに有効な検査です。
フォローアップレベルが高い小児・AYA世代がん経験者特有の主な検査項目開く
心機能 心エコー検査 胸痛、動悸、息切れ、運動への耐久力低下などの症状がなくても、特定の薬剤や胸部の放射線照射などを受けている場合は必要になることもありますので、主治医と相談してください。
腎機能検査 シスタチンC
(成人期にはeGFRを測定することもある)
早期の腎機能低下を検出できます。腎機能低下が疑われる場合に検査します。
下垂体ホルモン LH
(黄体形成ホルモン)
下垂体前葉から分泌され、女性の排卵と、黄体ホルモンの分泌・促進、テストステロン(男性ホルモン)の分泌に関係しています。女性だけではなく男性の生殖機能の評価にも使われます。
FSH
(卵胞刺激ホルモン)
下垂体前葉から分泌され、女性では卵胞の発育とエストロゲンの分泌を促進する働きが、男性では精子形成に関与しています。女性だけではなく男性の生殖機能の評価にも使われます。
TSH
(甲状腺刺激ホルモン)
下垂体前葉から分泌され、甲状腺ホルモンの分泌を促します。甲状腺機能の評価に使用されます。数値が上昇すると甲状腺機能の低下が疑われます。
ACTH
(副腎皮質刺激ホルモン)
下垂体前葉から分泌され、副腎皮質ホルモンの分泌を促します。
PRL(プロラクチン) 下垂体前葉から分泌され、乳腺の発達や乳汁分泌に関与するホルモンですが、上昇すると女性でも男性でも性腺機能が低下していることがあります。
パソプレシン
(抗利尿ホルモン:ADH)
下垂体後葉から分泌されます。尿量を調節するホルモンです。
その他の
内分泌系検査
IGF-1
(ソマトメジンC)
成長ホルモンの分泌の状況を反映します。成長ホルモンは身長を伸ばすだけではなく、疲れやすさ、筋力の低下、皮膚の乾燥、肥満になりやすいなど代謝にかかわる様々な影響を及ぼすので、成人以降も注意が必要です。特に頭蓋照射をしていると成長ホルモンの分泌が不足することがありますので主治医に必ず確認しましょう。
FT4 甲状腺の機能をあらわします。
コルチゾール 副腎から分泌されるホルモンで、免疫系、中枢神経系、代謝系など身体の様々な機能に影響を及ぼします。日内変動があるので検査結果の評価には注意が必要です。
テストステロン 代表的な男性ホルモンです。性腺機能だけではなく、筋肉量にも影響を与えます。
E2(エストラジオール) 女性ホルモンの一つです。卵胞ホルモンとも言います。卵巣機能を表します。低下すると骨密度の低下にもつながります。
プロゲステロン 女性ホルモンの一つです。黄体ホルモンともいいます。子宮内膜の安定に関係します。
その他 骨密度 治療によって骨粗しょう症のリスクがある場合もありますので、必要に応じて検査をしましょう。

監修;前田美穂(日本医科大学付属病院小児科/日本歯科大学)

参考資料・情報コーナー

当会で開催した講演会の講演録や動画の他、晩期合併症や長期フォローアップについて参考になるサイトを紹介します。

講演録・講演動画

2021年6月6日(日)「小児がん経験者の健康管理」  講演録(「のぞみ」207号該当ページPDF)開く
2020年12月5日(土)「小児がんによる高次脳機能障害との付き合い方」 講演録(「のぞみ」205号該当ページPDF)開く
2020年10月18日(日)「小児がん患児・経験者のアピアランスケア~ちょっと心が軽くなる外見ケアの話~」 講演録(「のぞみ」204号該当ページPDF)開く
2020年9月13日(日)「小児がん経験者と疲れやすさ~晩期内分泌合併症を中心として~」講演録(「のぞみ」204号該当ページPDF)開く
2020年6月7日(日)「小児がんの移行期医療」講演録(「のぞみ」203号該当ページPDF)開く

参考にしたいサイト

小児がん親の会・経験者の会

全国の小児がん親の会や小児がん経験者の会の一覧です。同じ経験をした仲間同士の交流会などを行っています。
http://www.ccaj-found.or.jp/cancer_info/survivor_parents/